データシート

「Industrialな部品」ってどういうこと?(初心者向け)

電子部品のデータシートを見ていると「Industrial」と書いてある部品があったりします。

一つのデータシートの中でも型番が列挙されていて「この型番はIndustrial.この型番はIndustrialじゃない」と書かれている場合もあります。

 

Industrialってなんでしょうか。

 

辞書で引けば

「Industrial=工業用」

とわかります。

 

が、工業用って何?

何が違うの?

 

メーカの言い分はいろいろありますが、実際には「動作温度範囲」が違います。

例えばあるICの動作温度範囲は「0~70℃」。

でも、「Industrial」と書いてある型番を選択すると動作温度範囲「-40~85℃」になったりします。

つまり、低温と高温の両方に温度範囲が拡大しているんです。

(低温だけに拡大という場合もあります)

 

ところでちょっと疑問が出ませんか?

Industrialだろうとそうでなかろうと、機能は同じです。

機能が同じということは、きっと同じマスクで同じシリコンをつかって同じチップを使っているはずです。

ということは、Industrialと書いてあってもなくても中身は同じじゃないか。

Industrialって書いて無くてもIndustrialと同じ温度で動いてしまうのではないか?

 

正解は……たぶんその通り。(中身は同じで型番違うだけ)

もしかしたら違うかもしれませんが、その当たりはメーカーは教えてくれません。

一番の違いは「保証があるかないか」です。

動作温度範囲「0~70℃」をうたうICを-10℃で使って不具合が出ても文句は言えないですが、

「-20~85℃」だったら文句をいえます。(たとえ中身が同じでも)

そういうところが違いです。

 

以上、小田切でした。

やけに短いデータシートって何?

電子部品のデータシートが欲しくて検索していると、やけに短いデータシートにぶつかることがあります。

例えば、一般的なデータシートはトランジスタみたいな部品で10ページ以上、CPU的なものでは1000ページを軽く超えることもあります。

 

ところが、明らかに中に色々なブロックが入っている規模の大きなICなのに、データシートが2ページとか4ページと言う場合があります。

 

これはどういうことでしょうか?

 

これはメーカーが仕様を一般公開していないということです。

つまり、一般に公開しているのは「特徴」と「ピン配置」だけで、中の機能や電圧についてはすべて非公開ということです。

めったにないのですが、

・一部のアナログIC

・特定メーカー向けの部品

・アジアメーカー

・セキュリティIC

ではそういうことがあります。

 

詳細なデータシートはメーカーから入手しなければならないので、趣味でやっている場合はこういった部品の使用は諦めるのが懸命です。

業務で使用する場合も、「特定メーカー向けだから駄目」「NDA契約をしないと駄目」と一筋縄で行かない場合が多いです。

 

ということで、「ネットで検索したら短いデータシートが出てきた」は要注意。

その部品はよほどの理由がない限り、使うべきではありません。

 

以上、小田切でした。

データシートって全部読まないといけないの?(初心者向け)

実際の現場で電子回路の設計をしたことがない人にとって、データシートをどう扱うかは難しいものです。

実際に仕事をしていれば、周りの先輩たちがどのように扱っているか見ながら見よう見まねでなんとかなるのですが、独力だとそういうことができないのでちんぷんかんぷんでしょう。

そんなあなたにワンポイントレッスン(?)

 

データシートは全部読むものか?

いいえ。

普通はそんなことはしません。

必要な所だけピックアップして読むものです。

例えばCPUのデータシートなんて1000ページを軽く超えます。

そんなもの全部読んでいたら、いつまでたっても設計できません。

 

では、データシートはどこを読めばいいの?

正直、場合によりけりです。

 

ですが、基本的にまず読むべきは1枚めです。

1枚めには特徴がだいたい書いてあります。

逆に言うと、1枚目に書いてあることが理解できない状態だと危険です。

ググりまくる何なりして、1枚目に書いてある事の用語の意味程度はわかるようになりましょう。

 

次に大事なのは「絶対最大定格」と「電気的特性」の入力電圧です。

これがわからないと何ボルトが必要かすらわかりません。

 

次に大事なのはピン配置です。

どういうピンがでているか。

これさえわかれば、なんとなく全体像が見えてくるものです。

ピン配置をじっくり眺めてみましょう。

 

こんな感じで全体像を掴んで、ざっくり回路を引いていって、後から気になる所を調べていく、という流れになります。

まあこの「気になる所」というのが分かるまでだいぶ経験が必要なんですけどね・・・

 

以上、小田切でした。

データシートの「推奨」ってどう取ればいいの?(初心者向け)

データシートを見ていると「推奨」という言葉がよく出てきます。

「推奨動作条件」とか。

 

一般的に「推奨」というと、「守れるといいけど、守れなくても罰則がないこと」です。

絶対に守る必要があるものではありません。

しかし、ぶっちゃけた話、データシートの「推奨」はほぼ「絶対に守らないといけないもの」になります。

 

「推奨動作条件」=「できるだけ守って下さい」

ではありません。

 

「推奨動作条件」=「サポートを受けたければ守って下さい。これを守っていない場合はうちは知りません」

です。

 

「推奨」なんて言葉がついていますが、実質的にはきっちり全部守らないとサポートの時に「推奨している方法で使って下さい」と言われてメーカーからサポートを投げ出されます。

これは冗談ではなくマジ。

趣味であれば「絶対最大定格」だけ最低限守って「推奨動作条件」はちょっと外れても実質問題ありません。

しかし、実際の製品を作るとなると部品メーカーのサポートは必須です。

異常な動作をした時や、故障した時に、部品の解析を依頼することになります。

そんなときに推奨動作条件を守っていないと、メーカーはまともに取り合ってくれません。

(メーカーに寄って温度差がありますが、熱心に対応してくれないメーカーだと推奨動作条件を守ってない時点で投げ出されます)

 

ということで、「推奨」を言葉通りに取らないで下さい。

「推奨」と書いてあれば守らないとメーカーサポートしてもらえません!

 

以上、小田切でした。

データシートの温度表記について

部品のデータシートを見ていると、温度についていろいろ表記があると思います。

今回は温度についてざっくり説明したいと思います。

 

動作温度

その部品が正常に動作可能な温度範囲のことです。

この温度範囲以外では動かないということではなく、この温度以外では「動かない可能性がある」「おかしな動きをする可能性がある」ということです。

動いたり動かなかったりすることもあります。

とにかくこの範囲は守らないといけません。

 

ただ、問題はこれは周囲温度ではなく部品そのものの温度だということです。

つまり、周囲の温度が低くても、基板が熱くて部品がこの動作温度以上になっていたらNGです。

周囲と基板の温度が低くても、この部品自体の消費電力が多くて動作温度以上になってしまったらNGです。

だから、正確には基板の温度上昇と部品の温度上昇をいれて計算しないといけません。

(これについてはいつか説明する予定……)

時々、周囲の環境温度で規定されているのか部品自体の温度で規定されているのか、非常に曖昧な記述の部品もあります。

(こまるんだよな~)

 

保存温度

これは通電していないときの温度範囲です。

-30℃環境に非通電状態で放置される製品に保存温度-20℃の部品を使ったら駄目ということです。

 

各種電気的特性は25℃で書かれていることが多い

電子部品というのは全て温度で特性が変わってしまいます。

しかしそうすると何も書けないので、大抵の部品は25℃のときの特性が表になっています。

よくよく見ると、各表の上に(Ta=25℃)などと書いてあります。

※TaはTambientのことで、周囲の温度を示しています。

たまに温度について何も書いていない表が載っている部品もありますが、そういう場合もだいたい25℃の特性と考えて下さい。

 

では25℃以外の特性が知りたかったらどうするか?

実は、分かるものとわからないものがあります。

温度と特性値のグラフがついている部品はそこから判断することが出来ます。

しかし、グラフも全ての特性について載っているわけではありません。

また、そもそも温度と特性値の関係のグラフが一切載っていないデータシートもたまにあります。

(不親切だな~と思いますが、実際にあります)

そうすると、25℃以外の特性はわからない場合もかなりあります。

 

実際は、25℃の特性値だけで設計してしまうことも多いです。

(実際は-10℃や50℃で使用されるとしても)

経験的に25℃の特性値だけで設計すると問題が出ると分かっている場合は、追加の資料をメーカーに請求することもあります。

 

以上、ざっくり説明な小田切でした。

データシートの絶対最大定格とは?(初心者向け)

部品のデータシートを見ると、いろいろな特性の表が載っていますが、

だいたい最初に乗っているのは「絶対最大定格」です。

 

さて、この絶対最大定格とは何でしょうか。

それは「一瞬たりとも超えてはいけない値」です。

これを一瞬でも超えると壊れる可能性があり、壊れても文句は一切言えない値です。

逆に言うとこれを守っていれば壊れないはずなので、問題が起こった時にメーカーに問い合わせをすることができます。

 

「なるほど、これを超えないように設計すれば良いんだな」

 

その通りです。

ただ、気をつけてもらいたいのは、

絶対最大定格=部品が壊れない値

でしかなくて、「正常動作する値ではない」ということです。

 

どういうことでしょうか。

 

ちょっとこのOPAMPのデータシートを見て下さい。

https://www.njr.co.jp/products/semicon/PDF/NJM4556A_J.pdf

 

絶対最大定格の欄に「同相入力電圧:±15V(電源電圧が± 15V 以下の場合は電源電圧と等しくなります。 )」と書いてありますよね。

ここでは「同相入力電圧」の意味がわからなくてもOKです。

電源が±15V入れていれば、OPAMPの入力端子に±15V入れても大丈夫ということです。

 

ですが、その下の電気的特性を見て下さい。

ここには「同相入力電圧:(標準)±14V」と書いてあります。

±15Vじゃないですよね。

 

つまり、

「電源に±15Vを入れた時に、OPAMPの入力端子に±14Vまでの電圧を入れても動きます」

「電源に±15Vを入れた時に、OPAMPの入力端子に±15Vまでの電圧を入れても壊れません」

という2つのことを言っています。

つまり、14.5Vをいれたら「壊れないけど動かないかもしれない」と言っています。

 

これ気をつけて下さい。

ごくたまにですが、経験者でもこの「壊れないけど動かないかもしれない」という設計になっていることがあります。

(たいてい動いちゃうんですが)保証対象外なので設計として完全にNGです。

 

以上、小田切でした。