静電気

静電気対策でGNDが非常に大事な理由

基板の静電気対策をするとなると保護部品を使うのが一般的ですが・・・保護部品を使ってもどうにもならないケースがあります。

それは、基板のGNDの設計がまずい場合。

 

静電気が信号ラインや電源に入ってきた場合、結局の所どんな保護素子を使っても「逃がす」だけであって、根本的に消滅させることは出来ないです。

要は保護素子って「高電圧が入ったときに導通状態になる」という動作をするだけです。

なので、保護したい信号ラインとGNDをつないでおくと、高電圧になったときにGNDと導通状態になって静電気がGNDに逃げていくことで信号ラインの電圧が上がらずに済むわけです。

 

原理的にはこれだけなのですが、問題はGNDの設計が悪い場合。

静電気などを逃がすためのフレームグランドが信号用のGNDと別に用意されている場合もありますが、小型機器の場合はGNDは一つなことが多いです。

なので、静電気をGNDに逃がすとデジタル回路のGNDに逃げていくことになります。

聞いただけで、なんかちょっと「えー」という気分になりますが実際にはそんなものです。

そして、GNDがスカスカとか細い配線で繋がっているだけな場合、静電気が入った瞬間にGNDという概念は破綻します。

そもそもGNDとは、基準電位です。

製品全体・基板全体で同じ電圧だという想定で成り立っています。

ある部分とある部分のGNDの電位が違うとかあってはいけません。

しかし、GNDといってもただの銅箔の配線なので、実際には抵抗値があります。

そして、細い所があればコイルとしてそれなりのインダクタンスをもちます。

 

GNDに抵抗値とインダクタンスがあるとすると、そこに静電気を逃がすとどうなるでしょうか。

静電気→(瞬間的な)大電流→抵抗に大電流が流れると大きな電圧が発生する→GNDの部位によって大きく電位が異なる

静電気→過渡現象→高周波成分→インダクタンスが抵抗として働く→抵抗に大電流が流れると大きな電圧が発生する→GNDの部位によって大きく電位が異なる

 

とまぁ、抵抗値とインダクタンスの両方共がGNDの電位差を生み出すことにつながってしまいます。

ある部分のGNDは0Vだけどある部分のGNDは+100Vあるいは-100Vという状況が、瞬間的に発生してしまうわけです。

そりゃ、動作がおかしくなりますよね。

 

まとめると、GNDの設計が弱いと保護素子を使ってもだめな場合があるということです。

 

静電気の入り口に保護素子をつけると、保護素子の働きでその部分の高電圧は抑制される。

しかし、静電気は保護素子を通ってGNDに逃げるので、GNDに瞬間的な大電流が流れる。

GNDの設計が悪いと、GNDの抵抗成分とインダクタンス成分が大きく、瞬間的な大電流でGNDの電圧が部位によって変わってしまう。

そして、3.3V駆動のCPUの信号ラインなどに-40Vとか変な電圧がかかるので当然故障するか異常動作する。

 

対策としては2つしかありません。

1,GNDの設計をきちんとして、低抵抗・低インダクタンスになるようにする。要は信号ラインで細切れになっていないGNDべたを一層用意する。

2、GNDが弱いまま、コンデンサ・保護素子を各部に入れまくる。

→基板のあちこちにGNDと電源の間にパスコンを入れまくる。さらに、信号ラインがIC・CPUの定格を超えないように、IC・CPUの信号ラインとGNDの間に保護素子を入れまくる。

 

あきらかに2は非現実的です。

基板内部のCPUの信号ラインに保護素子を入れだしたら、どれだけの部品が必要かわかりません。

つまり、GNDの設計をきちんとするしかないわけです。

 

以上、小田切でした。

TEの保護部品について

TE connectivityのカタログを見ていたらずいぶんといろんな保護素子が載っていたので、メモがてら簡単に紹介したいと思います。

 

ポリスイッチ

いわゆるPTCサーミスタです。

温度が上がると抵抗値が急上昇する部品で、その特性を使って電流を制限をする用途で使います。

「大電流が流れる→部品の温度上昇→部品の抵抗値が上昇→電流が制限」

という流れで電流を制限します。

普通のヒューズと違って、電流が止まれば冷えてまた導通状態に戻るので、過電流の度にヒューズを交換しなくて済みます。

そんな特性上、最近の機器ではヒューズ代わりにポリスイッチを使うことがすごく多いです。

 

こんな便利で素晴らしい部品ですが、周囲の温度で特性がずいぶんと変化してしまいます。

温度が上昇すると抵抗値が上がる仕組みなので、高温環境では少しの電流が流れただけですぐに抵抗値が上がってしまいますので、あまり電流を流せません。

低温環境では逆に大電流が流れてもなかなか温度が上がらないので、保護がききにくくなります。

なので、「常温ではきちんと保護されるのに、低温環境だと機器が壊れる」ということが現実にあります。

 

それから、自分の発熱で抵抗値が上がる仕組みなので、反応速度はそこまで速くありません。

電流と周囲温度によりますが、データシート上の代表値だと0.1秒から数十秒かかります。

数msの大電流で壊れてしまうような回路の場合、ポリスイッチでは保護しきれません。

 

 

ポリマーESD保護素子

ツェナーダイオードやバリスタのような高電圧を吸収する保護素子。

容量が0.25pFと小さいので、高速信号でも使えます。

ちなみに普段使っているROHMのツェナーダイオードだと寄生容量が10pF以上あるので、あまり高速な信号だとゆがみます。

 

ただ、ラインナップが3つしか無いので、ぶっちゃけ使い所に困りますね。

最大動作電圧 14V/24Vのラインナップのみ。

 

シリコンESD保護素子

これも高電圧を吸収する保護素子です。

しかし、上と違って容量が4.5pFあるので、高速信号には使いにくいです。

また、最大動作電圧6Vのラインナップしか無いので、使い所が限られます。

USBの保護ぐらいでしょうか。

 

ガスアレスター

これも高電圧を吸収する保護素子ですが、75V-4000Vと高電圧向けです。

通常の機器では内部でそれほど高電圧を使わないので、AC部分向けのソリューションですね。

 

表面実装ヒューズ

ヒューズと言うと丸いガラス管を思いつきますが、今ではチップ型のSMDタイプのヒューズもあります。

正直、「短絡で発火しないように保護はしてほしいけど、それで機器自体が壊れてしまっては困る」というケースがほとんどなので、一度切れたらおしまいなヒューズを使うことはめったにありません。

だいたいポリスイッチを使いますね。

静電気でどうしていいかわからないときの一歩目

静電気で問題が起こることは多いですが、問題の解析が難しいことも多いです。

わかりやすいのは部品の破壊です。

部品が壊れていれば見ただけでわかることもありますし、最悪でも外してテスターで当たればわかります。

そうすれば、その部品の周りに保護部品と追加するとか、なにか道が見えてきます。

 

一番やっかいなのが、「静電気をかけるとなんか異常動作する」という場合です。

異常動作がOKな基準なら良いですが、「その異常動作はなんとしても受け入れられない」となると大変です。

「なんか異常動作」ということは、部品が壊れているわけではありません。

ということは、静電気試験を終えた後にくまなく調べてもどこでなにが起こったかを調べる手がかりがまったくないのです。

これでは正直手のうちようがありません。

 

そこで、そんなときにおすすめしたいのが、「静電気の経路の可視化」です。

といっても難しくありません。

静電気を試験する時に部屋を暗くするだけです。

電圧の低い気中放電だと厳しいですが、そこそこの電圧の接触放電ならほぼ確実に静電気の光が見えます。

例えばネジに静電気を打つと誤動作するとしましょう。

その場合は、ネジに静電気を打ちながら、部屋を暗くして製品をあちらこちらの方向からよーく見ます。

それでも見えない場合は、ネジだけ残して蓋を外す必要があるかもしれません。

蓋を外すことで経路が多少変わるかもしれませんが、それでもやって見る価値があります。

そうすると、「ネジから基板のどこに飛んでいるか」が見えてきます。

そしてさらに運が良ければ「基板のどこから外に逃げているか」も見えてきます。

 

是非ともチャレンジしてみてください。

 

以上、小田切でした。

静電気イミュニティ試験の基準

ESD試験の基準はだいたい他所からの要求で決めるものですが、自分で決める立場になると決めるのが結構難しいです。

そうしたら、なんかいい表を見つけてしまいました。

ネット上にあるものではないので、内容だけ紹介します。

 

これはあくまで目安なので、参考程度にお願いします。

これを基準にどこまで厳しくするか、という考えでよいように思います。

 

試験対象
機器
接触放電 気中放電 間接放電 判定基準
家電
照明
商業・軽工業
工業
4kV
10回
8kV
10回
4kV
10回
B
情報機器 4kV
25回
8kV
10回
4kV
25回
B
医療用 2,4,6kV
10回
2,4,8kV
10回
6kV
10回
B

 

以上、小田切でした。

静電気対策の方法

信頼性試験で実施する静電気試験ですが、試験のためだけでなく実際の現場でも静電気は飛ぶので、この対策は非常に重要です。

ということで、代表的な静電気対策を簡単に列挙したいと思います。

 

◯電源

まずは電源です。

電源は静電気だけでなく雷サージなどもあるので、高電圧の対策は必須です。

そして、この部分は逆刺しの可能性も考慮して、双方向の高電圧保護部品である「バリスタ」を使用することが多いです。

普通のツェナーダイオードですと電源逆刺しの際に、ツェナーダイオードに大電流が流れて破損してしまいます。

 

◯インターフェース部

コネクタ類です。

コネクタに人が触れる場合などに静電気が飛んできます。

なので、インターフェースの各線にはツェナーダイオードかクランプダイオードを入れます。

普通のデジタル信号線には負電圧が入ることがありませんので、双方向の保護素子であるバリスタは必要とされません。(使ってもわるくないけど)

ツェナーダイオードはGNDと信号線の間に入れ、ツェナーダイオードの降伏電圧以上の電圧をGNDに逃がすようにします。

クランプダイオードは、「信号線とGND」と「信号線とVCC」に入れ、VCC以上またはGND以下の電圧をGNDやVCCに逃します。

 

◯人が触れる部分

スイッチなどです。

ここもツェナーダイオードかクランプダイオードを入れます。

 

◯基板外周

基板はたいてい筐体に入りますが、筐体の隙間から静電気が入ってくることが有ります。

なので、基板の最外周に部品があるとそこに静電気が飛んだ時に部品が壊れてしまいます。

最外周をGNDにしておくことで、筐体の隙間から飛んできた静電気がGNDに逃げるようにします。

 

◯ネジ穴周辺

ネジ穴も静電気が飛んでくる場所です。

なので、基板に開いているネジ穴の近くにGNDではなく部品があると、部品を壊します。

ネジ穴はまずGNDを置いて、そのまわりに部品を配置します。

 

◯金属部は部品から離す=GNDに接続する

金属がある製品だと、静電気はまず金属に飛びやすいです。

なので、金属の近くに部品があるとそこを静電気が通ったときに部品を壊します。

金属はGNDに接続するなどして、静電気が部品を通らないように配慮します。

 

代表的なところではこんなところでしょうか。

 

以上、小田切でした。

LED(発光ダイオード)に静電気が飛んだときの保護について

LEDというのは筐体表面に人が触りやすいところに配置されます。

 

普通、

「でも、筐体の素材が間に入っているので、まぁ大丈夫でしょ」

と思うんですが・・・

 

実のところ、LEDの周りを筐体が完全に覆っていればめったに問題ありません。

問題は、筐体の合せ目にLEDがある場合ですよ。

例えば、筐体が上と下に分かれていて、カパッと組み合わせる。

そうするとその組み合わせた部分にわずかながら隙間ができます。(段とかついていて密閉に近い構造でもわずかな隙間がある場合があります)

すると静電気はどんなわずかな隙間も突き抜けていく嫌な奴ですので、そういった隙間から基板に侵入します。

そこにLEDがあると……アウチ! ってなわけです。

 

そうすると、特に基板の隅にあって筐体の隙間に近いLEDには必ず対策を加えないと危ないです。

恐らく静電気試験の際にLEDが死ぬでしょう。

 

ということで、どういう対策を加えるかということですが……

正直な話、適当に適当な耐圧のバリスタを加えるだけでも案外なんとかなっちゃったりします。

真面目に部品選定していなくても効果が大きかったりするんですよね。

でも、今回は真面目に考えてみたいと思います。

 

典型的なLED点灯回路

 

LED静電気1

 

よくあるLED点灯回路はこんな感じです。

LEDを電源につっておいて、トランジスタで電流を引いて光らせます。

 

さて、静電気が問題になるのはハイインピーダンスなラインです。

つまり、LEDであれば光っているときより消灯しているときのほうが静電気に対して無防備なわけです。

ということで、消灯しているときの回路を示してみましょう。

 

典型的なLED点灯回路の消灯時

 

LED静電気2

 

トランジスタがONしていないのでハイインピーダンスになっています。

ちょっと乱暴ですが、抵抗R1の先に何もつながっていないのと同じような状態と考えられます。

すると上のような気持ち悪い回路図になります。

 

 

じゃあ、ここで静電気を掛けてみましょう。

+8000Vの静電気を帯びた迷惑な人間が筐体の隙間に触って静電気がLEDに飛んできます。

LEDのど真ん中に飛ぶとは考えにくいので、LEDのアノード側に飛んだときとカソード側に飛んだときで考えましょう。

 

消灯時のLEDのアノード側に+8000Vが飛んだ!

LED静電気3

 

見ての通り、+8000VはVCCより絶対に高いので、VCCに逃げていきます。

LEDの中を通っていかないのでLEDは無事です。

電源は低インピーダンスなので静電気ぐらいでは普通は壊れないので大丈夫でしょう。

 

 

消灯時のLEDのカソード側に+8000Vが飛んだ!

LED静電気4

 

カソード側に+8000Vがかかりました。

抵抗の先は絶縁状態ですから、流れやすいVCCに流れようとします。

しかし、そのときに途中にLEDがあるわけです。

静電気はどうするでしょう?

静電気さんはそんなことは気にしません。

自分の電圧でゴリ押しして突き抜けるんです。静電気とはそういうやつです。

LEDの逆電圧って普通5V程度ですよ?

そこに8000Vがかかってご覧なさい。

100%ご臨終です。

 

 

LEDと逆方向にダイオードをつなげてみよう!

 

LED静電気5

 

ということで、LEDと逆方向にダイオードを並列接続します。

LEDの逆方向電圧は5Vなのに対して、普通のダイオードの順方向電圧は0.6V程度なので、ダイオードの方が流れやすいわけです、

ということで、+8000Vはダイオードを流れていくのでLEDは壊れずにすみます。

 

ここまではOKです。

しかし、忘れちゃいけない。

静電気には+8000Vだけじゃなくて、-8000Vなんてものもあるんです。

 

消灯時のLEDのアノード側に-8000Vが飛んだ!

この回路にたいしてアノード側に-8000Vを掛けてみましょう。

LED静電気6

VCCからアノードに電流が流れるだけです。

このときはLEDに電流が流れないので無問題です。

 

次にカソード側に-8000Vをかけてみましょう。

 

消灯時のLEDのカソード側に-8000Vが飛んだ!

LED静電気7

さて、こんどはLEDの順方向側に静電気が流れることになります。

ダイオードの逆方向電圧は普通100V以上あるので、順方向電圧2-3V程度のLEDの方が流れやすいわけです。

「LEDの順方向にすごく大きいピーク電流が流れる」

というわけです。

これがOKか?

これが微妙なんです。

100%壊れるとはいえないですが、LEDは弱いので静電気のピーク電流で死ぬ可能性もあるわけです。

 

 

ツェナーダイオードを使用したLED保護回路

LED静電気8

ということで、ダイオードをツェナーにしてみます。

このツェナー電圧はLEDの順方向電圧より大きい必要があります、

そうでないと、LEDが発光する際の電流がツェナーに逃げてしまいます。

ここでは5.1Vにしてみました。

-8000Vの静電気が入ったときのサージ電流はどれほどでしょうか。

正直わかりませんが、相当大きいのは間違いありません。

その時のLEDの順方向電圧とツェナー電圧のどちらが大きいか?

これもわかりません・・・。

しかし、想定としては、サージ電流が大きすぎてLEDの順方向電圧は7Vとか18Vとか大きな値になり、それに対してツェナーダイオードのツェナー電圧の方が小さくなり、電流はツェナーダイオードを流れていくことになります。

そうすると、ツェナーダイオードのサージ耐性はLEDよりあるのでLEDを壊さずに済むわけです。

 

 

まとめ

これまでのことをざっくりまとめると。

 

静電気耐性は

保護なし<<<<<<<<<並列にダイオードを逆方向に接続<<並列にツェナーダイオードを逆方向に接続

となります。

 

逆方向電圧から保護するにはダイオードが必須で、順方向のサージ電流から保護するにはツェナーダイオードが必要、ということです。

ダイオードだけでも大丈夫だと思いますが、条件によってはツェナーにしないとダメかもしれない、という考察になります。

 

まぁ、ぶっちゃけた話、どうせ対策するならツェナーにするのが無難です!

 

以上、小田切でした!