静電気というのは電気を扱う製品にとって非常に厄介で、動作不良や故障を引き起こします。
もう本当に厄介です。
今回は筐体に入った電子装置について考えます。
というか、世の中に出ているほとんどの製品は箱に入っています。
その箱は金属製の場合もあれば、樹脂製の場合もあります。
さて、どちらが静電気が厳しいでしょうか。
正解は、樹脂製です。
金属製は電気を通しやすいので一見すると危険に思えますが、静電気が入ってきても筐体を通ってどこかに逃げて行ってくれるので、中身の電子部品には静電気が流れません。
ところが、樹脂製は電気を通さないので、静電気が入ってきたときに筐体に流れずに中身の部品に流れてしまいます。だから、壊れやすいのです。
このように静電気というのは電気が流れやすいところに流れていく性質があるので、「周りは絶縁体。電気を流しやすい部品は電子部品のみ」という状態が一番危険です。
大昔の製品ならとにかく、最近の製品はプラスチック筐体が多いので静電気が中に入りやすい状況です。
もしプラスチック(樹脂)の絶縁能力が無限大だとすれば静電気なんて怖くないのですが、実際には有限ですし、通常つなぎ目があるので隙間もあります。
静電気は薄いプラスチックの絶縁限界を超えたときや小さな隙間から製品の内部に入ってしまいます。
絶縁耐力
絶縁体の能力として、「絶縁耐力」という言葉があります。
ここでは静電気試験の目安である15kVで考えていきます。
例えば、空気の絶縁耐力は3.0kV/mmですので、15kVの静電気では5mmの空気があれば絶縁できるわけです。
……と言いたいのですが、実際の空気はホコリが浮いたり水分があったりで絶縁能力が低下しているので1kV/mm程度しかないらしく、15kVに対しては15mm程度なければ絶縁できません。
一般的なプラスチックであるポリカーボネートの絶縁能力は16-18kV/mm程度ですので、1mmの厚みがあれば絶縁できることになります。
素材の絶縁耐力を調べることで、何ミリあればどの程度の静電気に耐えられるか計算することができます。
距離の確保の仕方
上記の絶縁耐力から、15kVに耐えるには空気なら15mm、ポリカーボネートなら1mm程度の距離が必要になります。
静電気を打つ場所(=人が触れると想定される場所)から中の部品まで、これだけの距離を確保できれば静電気が中身に到達することはないわけです。
例えば、ものすごく大きな樹脂筐体の中に小さな回路が入っていて、スイッチなどが表面に露出していなければ、距離が15mm以上あるので空気だけで絶縁できて静電気は入りません。
しかし、実際の製品は筐体ぎちぎちに基盤や部品が入っていますので、そんな距離は取れません。
となると、空気の絶縁能力に頼ることはほぼ不可能で、プラスチックの絶縁能力に頼ることになります。
つまり、製品を1mm以上の厚みのプラスチックでくまなく覆って、どこに触っても人間の指と中身の部品の間にプラスチックが挟まるようにします。
しかし、問題はどうしても出来てしまうつなぎ目です。
このつなぎ目から中の部品まで15mm以上の距離があれば、空気が絶縁してくれるから問題ないのですが、そうはいかない場合はなんとかしないといけません。
1,つなぎ目を完全になくす:接着剤のようなものを流し込んで完全に固めてしまう方法です。最近は接着剤で完全に密閉してしまう製品も多いです。
2,嵌めあいを深くして15mm以上の距離を確保する:嵌めあいを深くすると、静電気が表面から中の部品に到達するまでの距離が長くなります。
どちらにしろ、面倒な代物です。
以上、小田切でした。