よもやま話チックですが、一応現実の話をしたいと思います。
「電子回路入門」みたいな本を読んでいると、突然「トランジスタの増幅回路」が登場して「エミッタ接地」「エミッタフォロワ―」「バイアス抵抗」などと難しい概念のオンパレードが一気に出てきます。
あれ、初心者が読むと絶望しますよね。
よくわかります。
本を書いている人は初心者がなんだか分かっていない。
それまで優しく書いていた人が、トランジスタが登場した途端に、初心者に絶対に理解できないことを平然と書き出します。
(まぁ、トランジスタの増幅回路自体が要素が多くて簡単に説明できないからなんでしょうが)
99%の人はその本を投げ出しますよね。
私も投げ出しました。
で、このトランジスタの増幅回路なんですが、たしかに大事です。
トランジスタでオーディオアンプでも作ろうというのなら。
でも、今の製品でトランジスタでそんな難しいことしません!!
ということで、実際の製品開発の現場ではどうなのかという話をします。
そもそもトランジスタのアナログ回路を設計できる人なんてめったに居ないから
専門外の人はそういった入門書を見て「回路設計の人はきっとみんなこれがわかるんだろうな~。自分にはちんぷんかんぷんだよ」と溜息をつくことでしょう。
でも安心(?)してください。
回路設計をしている人でも、トランジスタを使ってアナログ増幅なんてできる人は1割も居ません。
回路分野には「デジタル分野」「アナログ分野」があって、殆どの人はデジタル分野の人です。
アナログ分野の人なんて、本当に珍しいです。
ということで、回路設計のプロでもトランジスタでアナログ信号の増幅なんて組めないので、ぶっちゃけスルーしても大丈夫です。
(知識としては大事ですが、実際には使いません)
トランジスタ使うよりICを使ったほうが確実だから
トランジスタを組み合わせることで、自由自在に信号を増幅することが出来ます・・・が。
まず、第一に設計そのものが難しいです。
その上、趣味で作るのと違って量産が必要なので、部品のばらつきも考慮もしないといけません。
(ネットに転がっている趣味のトランジスタ回路では「この抵抗はトランジスタのばらつきに合わせて調整する」と書いて有ることが結構あります。実際の製品はそれじゃ困る)
ここまで難しいトランジスタ回路ですが、ICを買ってくれば同じことが出来てしまいます。
例えば、トランジスタを10個使う必要がある増幅回路も、1個のオペアンプというICで出来てしまうとします。
トランジスタは設計超難しい。
オペアンプはずっと簡単。
トランジスタのバラ付きがどうなるか検討するのすごく難しい。
オペアンプはどう特性がばらつくか全部メーカが資料出してくれる。
トランジスタは意外とディスコンになるから
昔であればもっと長期供給されたのでしょうが、最近は頻繁に部品が生産中止になります。
とくにIC部品よりディスクリート部品(トランジスタなど)のほうが多い印象です。
最近じゃトランジスタは簡単に生産中止する。別のトランジスタに変えたら動作の再検討がすごく大変。
最近じゃオペアンプのほうが生産中止になりにくい。別のオペアンプに変えるのも結構簡単。
トランジスタを使ったほうが高かったりするから
「トランジスタ=安い」「IC=高い」という印象があると思いますが、そうでもありません。
IC一つに相当する機能をトランジスタで作るともっと高くなります。
トランジスタ一個10円で、10個使えば100円。
オペアンプは1個60円だったりする。
(オペアンプは4回路入りなどもあるので、もっと価格差が広がる場合も)
トランジスタで作ると面積がたくさん必要だから
これは言うまでもありません。
トランジスタを何個も使ったらICの面積なんて簡単に超えてしまいます。
まとめ
と、こんなわけで今の御時世、トランジスタで増幅回路を作るメリットなんて殆ど無いわけです。
例外はこんなときです。
・部品一つ一つの特性にこだわった高級/趣味のオーディオ製品
・ICが使えない高周波増幅
・トランジスタ1つですむレベルの回路(LED点灯などのスイッチ用途)
実際の製品ではトランジスタは完全にON・OFFさせてスイッチ部品として使用します。
アナログ増幅にトランジスタを利用することはほとんどありません。
オーディオの増幅なんかは、完全にICが主役になっています。
以上、小田切でした!