2017年 11月 の投稿一覧

普通のダイオードとショットキーダイオードの逆方向電流の比較

意外と設計者が気にしていないのが、ダイオードの逆方向電流。

「逆方向電流」とはダイオードに逆方向に電圧をかけた時に流れてしまう電流のことです。

大電流が流れる電源ラインなどではほとんど気にすることがないですか、電流が少ないラインや信号部では結構重要になってきます。

これが原因で電池が早く消耗したり、想定外の電圧になってしまったりします。

 

ということで、ちょっと実際のダイオードでどれ位の逆方向電流が流れるか比較してみようと思います。

 

今日の比較対象

ROHM当たりから表面実装品を引っ張ってこようと思ったのですが、ROHMはデータシートの一部でも転載するなとうるさいので止めておきます。

著作権上、説明に必要な妥当な範囲での引用はOKなはずなんですが、難を避ける意味でROHMはやめておきます。

ちなみに、ROHMは国内メーカーでダイオードやトランジスタをラインナップしていてすごく使いやすいメーカーですよ。念のため。

 

ということで、今日はアマチュアな人でもよく使う秋月で扱っているリード品のダイオードで比較したいと思います。

実務では表面実装品しか使いませんが、特性は似たようなものなので良いでしょう。

1Aクラスということで、この二つを選びました。

普通のダイオード:PANJIT 1N4007

ショットキーバリアダイオード:PANJIT 1S4

 

電圧降下(順方向電圧)の比較

では最初に両方共に定格電流である1Aを流したときの順方向電圧を見てみましょう。

これが小さいほどダイオードとして優秀です。

 

1N4007:

1n4007Vf_spec

1N4007は1Aで1.1Vです。

普通のダイオードであればこんなものです。

 

1S4:

1s4Vf_spec

1S4は1Aで0.5Vです。

なんと1N4007の半分!

さすがショットキーバリアダイオードです。

 

 

逆方向電流の比較

本題の逆方向電流です。

 

1N4007:

image

最大電圧で25℃で5uAです。

1N4007は1000V耐圧なので、なんと逆方向に1000Vも掛けても5uAしか流れません。

 

1S4:

image

対して、1S4は25℃で0.2mA = 200uAです。

なんと1N4007の40倍です。

しかし忘れてはいけないことがあります。

1S4の耐圧はわずか40Vです。

なので、逆方向に40Vかけると200uA流れてしまうということになります。

 

結論

定格電流が同じ物同士で比較すると、やっぱりショットキーバリアダイオードは逆方向電流が大きい

5uA@1000Vと200uA@40Vの違いは大きいです。

このことを頭においておくといつか役に立つときがやってきます。

 

以上、小田切でした。

回路設計の仕事の流れ(手順)とは?(初心者向け)

回路設計と聞いて、

「まぁ、なんかあの四角と線でできた不思議な絵を書いているんだよね」

ぐらいは想像できても、一体何をしているのかイメージできない人が多いんじゃないでしょうか。

また、回路がある程度分かる人でも、実際の回路設計技術者がなにをやっているかなんて知らないと思います。

今日はそこについて簡単に説明したいと思います。

 

いきなり回路を引くわけじゃない

「回路設計の仕事なんだから、なんか頼まれたらすぐに回路図を書き始めるんでしょ?」

そんなわけはない。

仕事は段取りが9割というじゃないですか。

というか、まず、それはできないです。

自分も最初にこの仕事を始めたときはいきなり引こうとしましたが、先輩に滅茶苦茶怒られました。

きっとあなたも怒られることになるのでそれは止めましょう(笑)

 

 

仕様を引き出す

まず最初に営業経由でお客さんから仕様がやってきます。

その資料は様々です。

プレゼン資料みたいになっていて、目的・デザイン・機能・サイズまで規定されているものもあれば、

箇条書き程度しかないものもあります。

しかしどちらの場合も、設計者ではない人が作っている資料なので、基本的に設計者が欲しい情報が入っていません。

例1:

「ん? LEDってあるけど、これ何色なんです?」

「赤と緑の二色LEDで」

「書いてないじゃないか……」

 

例2:

「USBって書いてあるけどこの文面だとUSBから充電するだけってことだよね?」

「いやデータ通信もするらしい」

「この文面じゃ分からないよ」

 

例3:

「スイッチか~、プッシュタイプでいいのかな?」

「シャッターボタンと保存ボタンと電源ボタンが欲しいって」

「ちょっとまって、スイッチ3つとか読み取れないから」

 

例4:

「後でソフト屋さんに確認しないといけないけど、CPUのROMは64kBもあれば十分そうだね」

「いや、なんかログデータを保存するので1MB必要なんだって」

「ちょっとまって、この資料からそんなこと読み解ける人が居たら呼んできてよ」

 

例5:

「なるほどこういう機能でこういうインターフェースね。……ん、ちょっとまった、こんなサイズで収まるわけがないと思うんだけど」

「え? 大丈夫って言っちゃったよ、あはは」

「無理ゲーすぎる」

 

なにやら愚痴っぽい会話ばかりになりましたが、まぁ実際こういうものです。

渡された資料を信じ込んで作ると大変なことになるので、ちょっとでも怪しいと思ったところはとにかく聞きまくります。

この時に「お客さん側の担当者」と「自分」の間に人が何段もあると大変です。

(例えば、自分→会社の営業→商社→客先会社の営業→客先会社の上司→本当の担当者)

伝言ゲームで話が変わったり、返信が来るまで一週間以上かかったりして、一向に話が進みません。

なので、あなたが担当者になったときは、非公式でもいいので向こうの本当の担当者とのホットラインを作ることを激烈におすすめします。

 

 

仕様を決める

いろいろ確認しながら仕様を確定していき、なんとか仕様をまとめます。

例えば、

・製品の概要

・電源

・サイズ

・インターフェース

・LED

・スイッチ

・CPU型番

etc

いろいろ。

 

設計書の作成

上で決めた仕様とそれを実現するための部品を選定します。

そして、上の仕様と部品と選定理由などを書き下した設計書というものを作ります。

この書類を書くのが非常に大変なんですが、やっぱり作っておかないと後でトラブル出ます。

この設計書についてはいずれ語りたいです。

 

回路図作成

ここまで来てようやく回路図を引けるようになります。

設計書ができたタイミング、あるいは作りながら回路を引いていきます。

同時になる場合も多いです。

仕様や部品の選定は回路図を引く前にも決められますが、計算する部分もあるので、そこは回路を引きながら計算の中身を設計書に記述することになります。

 

後工程へ

回路図ができたらアートワーク(基板のパターン設計)に進みます。

ここは回路設計者と違う人や外注業者の場合が多いです。

 

おおまかにですが、こんなイメージです。

 

以上、小田切でした。

LED(発光ダイオード)に静電気が飛んだときの保護について

LEDというのは筐体表面に人が触りやすいところに配置されます。

 

普通、

「でも、筐体の素材が間に入っているので、まぁ大丈夫でしょ」

と思うんですが・・・

 

実のところ、LEDの周りを筐体が完全に覆っていればめったに問題ありません。

問題は、筐体の合せ目にLEDがある場合ですよ。

例えば、筐体が上と下に分かれていて、カパッと組み合わせる。

そうするとその組み合わせた部分にわずかながら隙間ができます。(段とかついていて密閉に近い構造でもわずかな隙間がある場合があります)

すると静電気はどんなわずかな隙間も突き抜けていく嫌な奴ですので、そういった隙間から基板に侵入します。

そこにLEDがあると……アウチ! ってなわけです。

 

そうすると、特に基板の隅にあって筐体の隙間に近いLEDには必ず対策を加えないと危ないです。

恐らく静電気試験の際にLEDが死ぬでしょう。

 

ということで、どういう対策を加えるかということですが……

正直な話、適当に適当な耐圧のバリスタを加えるだけでも案外なんとかなっちゃったりします。

真面目に部品選定していなくても効果が大きかったりするんですよね。

でも、今回は真面目に考えてみたいと思います。

 

典型的なLED点灯回路

 

LED静電気1

 

よくあるLED点灯回路はこんな感じです。

LEDを電源につっておいて、トランジスタで電流を引いて光らせます。

 

さて、静電気が問題になるのはハイインピーダンスなラインです。

つまり、LEDであれば光っているときより消灯しているときのほうが静電気に対して無防備なわけです。

ということで、消灯しているときの回路を示してみましょう。

 

典型的なLED点灯回路の消灯時

 

LED静電気2

 

トランジスタがONしていないのでハイインピーダンスになっています。

ちょっと乱暴ですが、抵抗R1の先に何もつながっていないのと同じような状態と考えられます。

すると上のような気持ち悪い回路図になります。

 

 

じゃあ、ここで静電気を掛けてみましょう。

+8000Vの静電気を帯びた迷惑な人間が筐体の隙間に触って静電気がLEDに飛んできます。

LEDのど真ん中に飛ぶとは考えにくいので、LEDのアノード側に飛んだときとカソード側に飛んだときで考えましょう。

 

消灯時のLEDのアノード側に+8000Vが飛んだ!

LED静電気3

 

見ての通り、+8000VはVCCより絶対に高いので、VCCに逃げていきます。

LEDの中を通っていかないのでLEDは無事です。

電源は低インピーダンスなので静電気ぐらいでは普通は壊れないので大丈夫でしょう。

 

 

消灯時のLEDのカソード側に+8000Vが飛んだ!

LED静電気4

 

カソード側に+8000Vがかかりました。

抵抗の先は絶縁状態ですから、流れやすいVCCに流れようとします。

しかし、そのときに途中にLEDがあるわけです。

静電気はどうするでしょう?

静電気さんはそんなことは気にしません。

自分の電圧でゴリ押しして突き抜けるんです。静電気とはそういうやつです。

LEDの逆電圧って普通5V程度ですよ?

そこに8000Vがかかってご覧なさい。

100%ご臨終です。

 

 

LEDと逆方向にダイオードをつなげてみよう!

 

LED静電気5

 

ということで、LEDと逆方向にダイオードを並列接続します。

LEDの逆方向電圧は5Vなのに対して、普通のダイオードの順方向電圧は0.6V程度なので、ダイオードの方が流れやすいわけです、

ということで、+8000Vはダイオードを流れていくのでLEDは壊れずにすみます。

 

ここまではOKです。

しかし、忘れちゃいけない。

静電気には+8000Vだけじゃなくて、-8000Vなんてものもあるんです。

 

消灯時のLEDのアノード側に-8000Vが飛んだ!

この回路にたいしてアノード側に-8000Vを掛けてみましょう。

LED静電気6

VCCからアノードに電流が流れるだけです。

このときはLEDに電流が流れないので無問題です。

 

次にカソード側に-8000Vをかけてみましょう。

 

消灯時のLEDのカソード側に-8000Vが飛んだ!

LED静電気7

さて、こんどはLEDの順方向側に静電気が流れることになります。

ダイオードの逆方向電圧は普通100V以上あるので、順方向電圧2-3V程度のLEDの方が流れやすいわけです。

「LEDの順方向にすごく大きいピーク電流が流れる」

というわけです。

これがOKか?

これが微妙なんです。

100%壊れるとはいえないですが、LEDは弱いので静電気のピーク電流で死ぬ可能性もあるわけです。

 

 

ツェナーダイオードを使用したLED保護回路

LED静電気8

ということで、ダイオードをツェナーにしてみます。

このツェナー電圧はLEDの順方向電圧より大きい必要があります、

そうでないと、LEDが発光する際の電流がツェナーに逃げてしまいます。

ここでは5.1Vにしてみました。

-8000Vの静電気が入ったときのサージ電流はどれほどでしょうか。

正直わかりませんが、相当大きいのは間違いありません。

その時のLEDの順方向電圧とツェナー電圧のどちらが大きいか?

これもわかりません・・・。

しかし、想定としては、サージ電流が大きすぎてLEDの順方向電圧は7Vとか18Vとか大きな値になり、それに対してツェナーダイオードのツェナー電圧の方が小さくなり、電流はツェナーダイオードを流れていくことになります。

そうすると、ツェナーダイオードのサージ耐性はLEDよりあるのでLEDを壊さずに済むわけです。

 

 

まとめ

これまでのことをざっくりまとめると。

 

静電気耐性は

保護なし<<<<<<<<<並列にダイオードを逆方向に接続<<並列にツェナーダイオードを逆方向に接続

となります。

 

逆方向電圧から保護するにはダイオードが必須で、順方向のサージ電流から保護するにはツェナーダイオードが必要、ということです。

ダイオードだけでも大丈夫だと思いますが、条件によってはツェナーにしないとダメかもしれない、という考察になります。

 

まぁ、ぶっちゃけた話、どうせ対策するならツェナーにするのが無難です!

 

以上、小田切でした!