「アートワーク」という言葉があるのですが、回路のことを知っている人でも案外知られていないようです。
アートワークの意味
一般的には絵画や写真のことを指します。
回路設計の業界では基板のパターンのことを指します。
「アートワーク設計」といったら基板の上にどう部品を置いてどう配線するかを決めることにあたります。
アートワークは誰がやる?
基本的にはアートワークCADを扱う専門の人が行います。
注意してほしいのは、大抵、回路を引く人とは別の人であるということです。
アマチュアでは回路も引いてアートワークも自分でやるという人が居ますが、実際の業務では「回路図を引く人」と「アートワーク(基板の設計)をする人」は別の人になります。
回路もアートワークも一人でやっていたら開発時間が伸びてしまいます。
回設計者は回路図をアートワークの専門家に依頼して、アートワーク中に別の作業を行います。
こうしないと開発期間が2倍必要になってしまいます。
アートワークの費用は?
結構業者さんによって違うのですが、私の経験では基板一枚で10~30万円くらいが多いです。
基本的に時間計算なので、費用は設計期間に比例します。
アートワークの期間は?
コネクタと部品が数個しか載っていない超絶簡単な基板で2-3日、小さなマイコンが乗っている基板で2週間、Linuxが載るような大規模CPUが載っている基板で一月ぐらいです。
ものすごく簡単な基板でも、回路設計者とアートワーク業者間のやりとり(確認と指示)が発生するため1日でできることはありません。
最低2-3日はかかります。
アートワークの依頼方法は?
「回路図」「部品表」「外形図」「基板仕様」「ネットリスト」の5つが必要です。
・回路図:PDFにして渡します
・部品表:EXCELなどコピペ可能なファイルで渡します。これを元に部品を置くためのパッドを設計します。
・外形図:基板のサイズやコネクタの位置が分かる図面です。簡単ならPDFなどでいいですが、複雑な形だとDXFデータなどの提出を求められることがあります。
・基板仕様:基板の厚み、色、層構成、注意点などを列挙した資料です。これがないと思っているのと違うものが出来ます。
・ネットリスト:回路設計CADで出力してできるファイルです。どの部品とどの部品が接続されているかを示した情報になります。アートワーク業者は実際にはこのファイルを元にして設計を行います。ちなみに、ネットリストとひとくちで言ってもいろいろな形式があるため、業者さんに「この形式で出力して下さい」と形式を指定されることもあります。
アートワークは業者に任せれば万全?
NO!これだけは絶対にNO!
上記の仕様を提出して基板を設計してもらうわけですが、万全なものができてくるなんて思ってはいけません。
コネクタの位置など指定があいまいであれば当然やり取りが必要です。
また、もし全ての指示が完璧でその通りに部品を配置してくれたとしても、それでもまだ不十分です。
大抵のアートワーク業者は……怒られそうな話ですが、
「アートワークCADの専門家であって、アートワークの専門家ではありません」
残念ながらこれがリアル。
アートワークCADの専門家ということは、こちらの指示通りに作ってくれるということです。
しかし、アートワークの専門家ではないということは、「電気的なことを考慮した配線の引き方」が全然出来てない!ということです。
今後書いていきたいと思いますが、正しいアートワークとは、
・電源線が太く短いこと
・高周波電流の閉ループが小さいこと
・表層GNDと内層GNDの結合が強いこと
・高周波ラインの周囲のGNDが内層GNDと密接続されていること
・高速信号同士が結合しないこと
・高速信号がアナログ回路と結合しないこと
・高周波吸収用パスコンがICの直近に来ること
・静電気の侵入口と部品類の間に保護素子が配置されること
・アンテナになってしまう配線がないこと
etc….
とにかく文章で書くとキリがないほどいろいろな条件を満たさないといけません。
こういった条件を満たさないと、
・ノイズに弱い:外来ノイズですぐ誤動作する
・ノイズを出す:ノイズを撒き散らすので各種規格に引っかかって出荷できない
・すぐ壊れる:静電気ですぐ破損する
・不安定:電源のフィードバックやアナログ部分の設計が悪いと挙動がおかしくなる
といった問題が発生します。
つまり、アートワーク設計というのは回路設計と同じぐらい超重要な要素なわけです。
しかしここはアートワーク業者に期待しても、ほとんど無理です。
なので、回路設計者かアートワークチェックの専門家がちゃんとチェックしてあげないといけません。
そういえば、私もアートワークチェックの仕事を引き受けていました。
もしチェックできる人が居なければ一言声をかけて下さい(売り込み)
以上、小田切でした!
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